お知らせ 【開催レポート】「見えない箱」を壊した先に、100年の自由がある

2026.02.20

世界最高齢プログラマー・若宮正子氏が説く、デジタル時代の「人間力」

2026年1月31日、冬の澄んだ空気の中で開催されたサタデーレクチャー。会場の早稲田キャンパス3号館301教室は、若宮正子氏の講演を楽しみに、多くの参加者が会場に集まりました。本日の講師は、81歳でゲームアプリ『ひな壇』を開発した世界最高齢プログラマー、若宮正子氏。対面・オンライン合わせて約150名の参加がある中、人生100年時代を前向きに生き抜くための「智慧」が語られました。

1. 「戦時教育」と「みかん箱」が育んだ柔軟な知性

若宮氏の歩みは、決して平坦なものではありませんでした。1935年に生まれ、軍事教育下の小学校で「春の小川」を歌うことさえ許されず、戦時色一色の教育を受けた幼少期。戦争によって授業が消え、疎開先の長野では飢えと戦う日々を過ごしました。

戦後、新制中学の2期生となった若宮氏を待っていたのは、椅子も机もない青空教室でした。「机がないから、みかん箱を机代わりに使っていました」と当時を振り返ります。しかし、学習指導要領すら定まらない混沌とした時代に、型にはまらない個性豊かな教師たちから受けた教育こそが、彼女の「正解のない問い」に向き合う力の源泉となりました。銀行員としての現役時代、そして退職後に独学でパソコンを習得した背景には、この「失敗を恐れずに挑戦してみる」知のハングリー精神がありました。

冒頭の『自己紹介』で語られた戦争による疎開体験などの話もとても含蓄の多い内容でした


2. デンマークに学ぶ「リラックス」と「生涯学習」の真髄

講演の核心は、若宮氏が自ら足を運んだ北欧デンマークの社会システムへと移ります。世界競争力1位を争うこの国では、午後4時には一斉にオフィスが消灯し、人々は「夕飯のサラダドレッシングの配合に情熱を注ぐ」ほど私生活を慈しみます。

「新しいアイデアを出すのに、緊張はいらない。コーヒーを飲み、甘いものをつまんでリラックスしてこそ、新しい発想が出てくる」

若宮氏は、日本とデンマークの決定的な差を「生涯学習への国家の関与」に見出しました。ITリテラシーの向上を個人の努力に任せるのではなく、国が責任を持って環境を整える。失敗を恐れず、マニュアルを捨てて「自分が最適だと思うやり方」を推奨する。その柔軟な土壌が、デジタル先進国を支えているのだと分析しました。

3. 「見えない箱」から抜け出し、AIを育てる親になる

若宮氏は、現代の日本人が無意識のうちに自分を閉じ込めている「見えない箱」の存在を指摘します。「年齢、常識、無難……そんな箱の中に自分を囲い込んでいませんか?」

急速に進化するAIについても、人間の素晴らしいパートナーとなると話しています。「AIは認知症になってもバカにしないで教えてくれる」と語り、積極的にAIの力を借りることを提唱しています。一方でAIは「まだ生まれたばかりの子供」として捉えるべきだと提唱します。 「AIがヤンキーにならないよう、人類の役に立つ存在になるよう、地球上の大人が『育ての親』になって育てていかなければならない」

そのために必要なのは、暗記や操作手順の習得ではなく、人間にしか持ち得ない「感情的知性」と「人間力」です。情報をデジタルで得て、それを読書や体験というアナログの熱量で深めていく。その往復運動こそが、知恵を熟成させると説きました。

結び:未熟さを愛し、成長を止めない

講演の終盤、若宮氏は「私自身、勉強すればするほど、自分の未熟さがよくわかるんです」と、はにかむように語りました。90歳を過ぎてなお、現状に安住せず「創造的でありたい」と願うその姿は、会場にいたすべての人々の「老い」に対する概念を、鮮やかに塗り替えていきました。

『学びは一生』。90歳を超えて探求心を体現する凛とした若宮氏

諦めた瞬間に、成長は止まる。しかし、一歩「箱」の外へ踏み出しさえすれば、そこには冷たい風とともに、限りない自由と未来が広がっている――。若宮先生が残した言葉の余韻は、参加者に確かな希望の灯をともしました。

『学びは一生』。90歳を超えて探求心を体現する凛とした若宮氏

 


【主催者より】早稲田大学エクステンションセンターのご案内

早稲田大学エクステンションセンターでは、現代の諸課題を各分野の第一人者とともに考える「サタデーレクチャー」をはじめ、年間1,800を超える多彩な講座を開講しております。知を深め、人生を再構築する「オープンカレッジ」の詳細は、公式サイトをご覧ください。