ご挨拶

大学開放の伝統と未来への継承

早稲田大学総長 田中 愛治

 本学は1882年の東京専門学校(早稲田大学の前身)の創設からわずか4年後に、草創期の礎を大隈重信らとともに築いた高田早苗の発案により、「校外教育制度」を発足しました。「校外教育」の目的は、多くの方が大学に通うことが困難な時代において「大学の知」を広く開放することであり、校外生を対象とした「講義録」(後の『早稲田大学講義録』)の発行、「巡回講話」と呼ばれる地方講演会などにより、多くの方々に学びの機会を提供しました。その後、時代とともに変化を続けながらも、その伝統は脈々と受け継がれ、現在の各学部や大学院の科目等履修生制度やノンディグリープログラム、エクステンションセンターにおける公開講座等へと引き継がれています。
1981(昭和56)年に開設されたエクステンションセンターは、現在では早稲田、八丁堀、中野の3つのキャンパスに年間1,900クラスの公開講座を「オープンカレッジ」として開講し、延べ約4万人以上の方が受講する国内屈指の生涯学習機関に成長しました。これからも地域との密接な連携を進めながら、より多くのみなさまに一層活用していただけるよう拡充に努めてまいります。
 「人生100年時代」といわれ、AIやIOTが登場した現代において、人々の生き方は更に多様化すると予測されます。「学び」への期待もそれに呼応し、キャリアアップのため、知的好奇心の探求のため、あるいは社会や地域の問題を解決するためなど、ライフステージに沿った学びの機会を求める声が高まると考えています。本学は、中長期計画「Vision150」において社会人教育の拡充を掲げ、本学が実施しているさまざまな社会人教育事業を、学習者のキャリアアップとライフステージに沿ってより体系化されたプログラムサイクルとして確立すべく再構築を進めております。
オープンカレッジには、「生涯学習」という言葉が一般的になる前から、高い向学心のもと、学び続ける人生を体現している方が数多くいらっしゃいます。オープンカレッジの特色のひとつである、独自の単位制により受講単位を積み重ねて修了に必要な76単位を満たした修了生は3千人以上に上ります。初めて受講されるみなさまは、そうした先輩方の姿を模範にしていただきながら、多様なバックグラウンドを持つ仲間たちと交流して、学び続けることの素晴らしさを大いに味わってください。

人と人をつなぐ知のネットワークの創造

早稲田大学エクステンションセンター所長 守口 剛

 「校外教育制度」によって推し進められた知の開放への取り組みは、列強諸国に肩を並べるべく近代化を成し遂げることが急務であった日本にあって、帝国大学の設立によってこれを成すことをめざした国に対し、「民の独立こそ国の独立をなす」ことを理念に創設された本学の精神を反映したものでした。当時、東京専門学校の学生数は1学年約200 ~ 300人。校外生制度は、それではなかなか日本を良くすることはできないと考えた高田早苗による施策であり、やがて早稲田大学教旨の一つ「模範国民造就」へと結実する早稲田大学教育方針の萌芽でもありました。囲い込みではなく、広く全国に知見を広めるとともにその理念をも拡げていこうとするその精神は、その裏返しとして大学のキャンパスに人を集めることと表裏一体の取り組みでもありました。大学が社会人教育を担う意味は、時空を超えてそうした知の共有のコンテクストを維持・共有することにあります。
 エクステンションセンターは、1981年の創設以来、早稲田大学の教育研究機能を広く社会に開放し、多様な学びの要望に応えることを使命に、公開講座-オープンカレッジを展開してまいりました。30有余年を経過した現在、その規模は10ジャンル1,900講座に達しました。講師には、学内の教員陣に加えて学外からも多彩な方々をお迎えしています。いずれの講師も、ある専門分野を深く探求して得た、通り一遍ではない特別な知見を有する方々です。そのようなそれぞれの分野の第一線で活躍されている専門性豊かな講師陣に講座をお願いできるのは、大学が「知のハブ」として人を吸着する機能を有しているからに他なりません。これも大学にしかできない重要な役割であると考えています。
 知識の共有化と民主化を進めて、常に新たな素晴らしい付加価値を与え続けることこそ大学の教育機関としての使命であり、これからも不断の努力をもってより良いプログラムの提供を目指して取り組んでまいります。
どうぞ早稲田大学ならではの多彩で魅力的な講座を存分に堪能してください。