お知らせ 【開催レポート】三島由紀夫という迷宮を歩く―小池真理子氏と東雅夫氏が語り合った、文豪 100 年目の「真実」

2026.02.13

2025 年 12 月 13 日、黄金色の銀杏が冬の陽光に映える早稲田大学早稲田キャンパス。
早稲田大学エクステンションセンターは、戦後日本文学の巨星・三島由紀夫の生誕 100 年を記念し、特別対談「三島由紀夫 100 年に思う。小池真理子 vs 東雅夫」を開催しました。

紺碧の空と大隈記念講堂

紺碧の空と大隈記念講堂

歴史ある学びの杜で、新たな知の探求の時間を企画しました。

会場の早稲田大学3号館には、対面・オンラインを合わせて200名を超える熱心な聴衆が参加しました。
知的な興奮に満ちた90分間のセッションを詳しく報告します。

1. 14歳の衝撃から「怪物」との再会へ

今回お迎えしたのは、直木賞作家であり三島作品の解説も手がける小池真理子氏と、怪奇幻想文学の第一人者である東雅夫氏です。東氏による「最高のミシマ・フリーク」という紹介を受け、小池氏は自身の作家的原点である三島体験を静かに語り始めました。

満員となった早稲田キャンパスの教室

満員となった早稲田キャンパスの教室

三島由紀夫という存在がいかに今なお、世代を超えて人々を惹きつけてやまないかを象徴しているか。小池氏が初めて三島文学に触れたのは、14歳の頃でした。当時は「背伸びをして読んだ」というその出会いから数十年。同じ表現者の道を歩む小池氏は、今改めて、三島を「知性と感性があまりに肥大化した怪物」と評しました。その言葉には、一人の作家が偉大な先達に向ける、真摯な畏怖と深い敬意が込められていました。

2.「鎧としての肉体」とバニティの極致

対談の核心は、三島が後半生で執着した「肉体」へと及びます。三島はなぜ、あれほどまでにボディビルに没頭し、肉体を鍛え上げたのか。

身振り手振りを交え、三島の「肉体美学」を鋭く分析する小池氏(左)

身振り手振りを交え、三島の「肉体美学」を鋭く分析する小池氏(左)

小池氏は、三島が肉体を「脆弱な精神を守るための『鎧(よろい)』」として構築しようとしたのではないか、と独自の視点を提示しました。「彼は自分の肉体すらも、一つの『作品』として完成させようとしていた」。その完成の瞬間は、即ち「老い」による崩壊が始まる直前でなければならなかった。自決を単なる政治的行動ではなく、究極の「美」を凍結させるための芸術的帰結として捉える小池氏の論考は、現代を生きる私たちの胸を打つアクチュアルな響きを持っていました。

3.耽美と幻想、そして『春の雪』

東氏は、小池氏の作品に見られる耽美と幻想のルーツを三島文学と響き合わせながら、対話を深めました。特に小池氏が新装版の解説を執筆した『春の雪』に触れ、三島が描き出した「滅びの美学」がいかに現代の文芸に血肉として受け継がれているかを浮き彫りにしました。

東氏(右)の博識な問いかけに、作家ならではの感性で応える小池氏

東氏(右)の博識な問いかけに、作家ならではの感性で応える小池氏

「三島は怪異やホラーの文脈でも語りうる」という東氏の提言に対し、小池氏も深く共鳴。夫である故・藤田宜永氏との間でも三島文学が共通言語であったという秘話も披露いただき、文豪が遺した豊饒な物語世界が、現代の作家たちの創作をいかに支え続けているかが克明に示されました。

4. 学びの杜から未来へ

対談の終盤、話題は「三島がもし現代に生きていたら」という問いに及びました。小池氏は「三島が老いていく姿は想像しがたい。彼は老いという醜悪に耐えられなかったはずだ」と分析しながらも、その遺された言葉が100年を経てもなお瑞々しく、私たちに問いを突きつけ続けている事実に、改めて三島の偉大さを強調しました。

モダンな建築が歴史と交差する3号館の吹き抜け。この空間で、知の深化を共有しました。

モダンな建築が歴史と交差する3号館の吹き抜け。この空間で、知の深化を共有しました

三島由紀夫生誕100年。私たちはまだ、彼の仕掛けた壮大な「言葉の罠」の中にいるのかもしれません。しかし、今回の対談は、その罠を読み解くことこそが文学という名の終わりのない冒険であることを教えてくれました。

 


【主催者より】早稲田大学エクステンションセンターのご案内

本イベントは、早稲田大学エクステンションセンターが企画する「サタデーレクチャー」としてお届けしました。

サタデーレクチャー 〜早稲田の杜の教養シリーズ~

本シリーズでは、第一線で活躍する研究者や専門家を迎え、現代社会、歴史、人間、科学といった多様なテーマを90〜120分のセッションで掘り下げます。土曜日開催のため、平日はお忙しい方々も気軽に参加できる「知の入り口」として運営しています。

年間1,800以上の講座で、さらなる知の探求を

当センターでは、単発のレクチャーに加え、年間1,800を超える「オープンカレッジ」講座を提供しています。

  • 専門性を深める: 各分野の権威による継続的な講義で、体系的な知識を身につけられます。
  • 多彩なラインナップ: 文学、歴史、芸術、最新科学、ビジネス、語学まで、早稲田ならではの知の資源を網羅しています。
  • 柔軟な受講スタイル: 対面だけでなく、全国から参加可能なオンライン講座も充実しています。

日常の喧騒から離れ、一流の講師陣と共に「学びの椅子」に腰かけてみませんか。早稲田大学エクステンションセンターは、新しい視点を求めるすべての方を歓迎します。

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